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あまあまお兄ちゃん

 ネズさんはわたしよりもオトナで、いつもわたしをたくさん甘やかしてくれる。朝なかなか起きられないわたしを起こしてくれて、美味しいごはんを作ってくれて、わたしの話を親身になって聞いてくれて、わたしが疲れていたり落ち込んでいたりするとぎゅっと抱き締めてなでなでしてくれて、夜は一緒のお布団で羊を数えてくれて、わたしが眠りにつくまでずっと見守っていてくれて。

 とっても優しくて、まるでお兄ちゃんみたい。本当にわたしのお兄ちゃんになってくれたらいいのに……なんて思うこともしょっちゅうだ。

 ふざけてお兄ちゃん、と呼んだらネズさんは複雑な表情を浮かべた。今日は『いい兄さんの日』らしいですよ、いつも優しくしてくれてありがとうございます。なんて日頃の感謝を伝えたら、ちょっと困っているみたい。

「やれやれ……おまえみたいに手のかかる妹を持った覚えはねえんですけどね。まったく、早く自立してほしいですよ」

 うっ。た、確かに、今までネズさんには数え切れないほど迷惑をかけている。わたしみたいな出来損ないの妹なんていらないか……とうつむいたら「冗談ですよ。そんなに落ち込まなくたっていいでしょう」と笑われた。

「おいで。甘えん坊な妹は、アニキの腕の中でたっぷり甘やかしてでろでろに溶かしちまいましょうね」

 でろでろに溶かされちゃう……!?甘い台詞にちょっぴり恥ずかしくなったけれど、えへへ、嬉しいな。ネズさんが両手を大きく広げてくれたので、腕の中に飛び込む。どれだけ我が儘を言っても突き放さないでいてくれることがほんとうに嬉しい。しんどいときいつも支えてくれて、たくさん元気をくれて、ネズさん、いつもありがとう。今までもこれからも大好きです。すき、すき、ぎゅーっ!暖かい胸元に顔を寄せて力いっぱい抱き着いたら、ネズさんも優しく抱き締め返してくれた。

​*


 ネズさんはわたしにとってお兄ちゃん的な存在だ。……いや、正直に言うとそれ以上の感情も抱いている。わたしは、わたしは……ネズさんのことが好き。

 いつかはきちんと気持ちを伝えたいし、できることなら関係を進展させたいとも思う。だけど振られてしまうのも怖いし、あわよくばずっとこの甘くて曖昧な関係を続けていられたらいいのに、なんて。そんなことは無理だって分かっているけれど、とりあえずしばらくはこのまま、優しい腕の中にいたい。

write:2020.11.23(いい兄さんの日)

edit:2020.12.05

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