L8-Nite Snacks
これの続き
「なに食べてるんですか」
背後から声を掛けられたので振り向くと、ネズさんに見下ろされていた。真夜中に起き出してアイスを食べているところをばっちり見られてしまった。今さら言い訳もできないので、暑くて起きちゃって、と正直に告げる。
「それでこんな夜中にアイスですか」
呆れたような声。なんだかいたたまれなくなって、これ持っててください、とネズさんにアイスを手渡し、立ち上がってキッチンへ向かう。冷凍庫からバニラ味のアイスキャンディを取り出して、リビングに戻る。少し汗をかいた足の裏がぺたぺたと音を鳴らす。ネズさんにアイスを差し出して、自分のそれを返してもらう。
「真夜中におやつを食べる趣味はねえんですけどね」
そう言いつつもネズさんはそれを受け取ってくれた。袋を開けて中身を取り出す。唇が開いて、つやつやと光る舌が顔を覗かせた。ぱかりと開いた口の中にアイスが吸い込まれていく。わたしはじっとその様子を見つめる。
──その舌と唇に愛でられるアイスが羨ましい、なんて。わたし、ムラムラしてるのかな。
「おれの口元をずっと見て、そんなにおれに食べられたいんですか?」
ネズさんがにやりと笑った。心臓がどきりと跳ねる。全くもってその通りなので、恥ずかしくなってしまう。
「まだ食べ始めたばかりなんで駄目ですよ。いい子だから、待て、できますよね?」
揶揄われているのだと分かってはいても、ネズさんには何故だか従ってしまう。この人には逆らえない、ネズさんにはそういう魅力がある。
わたしは従順なペットみたいにくうんと喉を鳴らして、大人しくネズさんの側に座った。そうしたら「よしよし、おまえは本当にいい子ですね」なんて褒めてくれて、頭まで撫でてくれた。ああ、我慢できない。はやくネズさんに抱きつきたい。
落ち着かない鼓動を誤魔化したくて、手に持っていたアイスに意識を向けた。本当はこんなもの一口で噛み砕いて、今すぐにでもネズさんの唇を食べてしまいたい、ネズさんに食べられたいのだけれど、『待て』と言われてしまったので仕方なく目の前のアイスキャンディをぺろぺろと舐める。
ネズさんがアイスを食べ終わるまで、ネズさんの唇に噛みつけるまで、今はこのバニラ味をゆっくりじっくり味わっていよう。
write:2020.08.30
edit:2020.10.29