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​真っ赤なハート

 大好きなネズさんにチョコレートをあげたい。ほんとは本命チョコをあげたいなあなんて思ったけれど、告白して振られちゃったら悲しいので、日頃の感謝を込めたお礼チョコとして渡すことにした。
 あの、いつもありがとうございます。たくさんお世話になってるので、よかったらこれ……。デパートで買ったちょっとお高めのチョコを渡したら、ネズさんはちょっと驚いたような顔をしたあとすぐに「ありがとうございます」と喜んでくれた。
「さっそくいただきましょうかね」
 ネズさんがしゅるりとリボンをほどいた。ピンク色の箱を開けると、色とりどりのチョコレートが並んでいる。ああ、我ながらいいのを選んだな、見た目もかわいいしすごく美味しそう。自分用にもう一箱買っておけばよかった、なんて。
「もしかして、おまえも食べたいんですか」
 ネズさんがくつくつと笑う。あ、じっと見ていたのがバレてしまった……。食い意地張ってるって思われちゃったかな。
「仕方ないですね。ほら、あーん」
 ネズさんの綺麗な指がチョコを一つ摘まんだ。え、とわたしが面食らっているうちに真っ赤なハート型のそれが口元まで運ばれてくる。
「いらねえんですか?」
 あ、あ、ネズさんがわたしに『あーん』してくれてる。ばくばくと鼓動がうるさい。恐る恐る口を開けると、つやつやのチョコが近づいてきた。
 ほんとに食べていいのかな、ネズさんの指もうっかり口の中に入ってしまわないかな、っていうかあーんって恋人みたいじゃない!?なんてぐるぐる考えていたら、「何してやがるんです。ほら」と半ば無理やり口に突っ込まれる。わ、あ、ほんとにあーんしてもらっちゃった……!どうしよう、気のせいかもしれないけれど、ネズさんの指がふに、と一瞬唇に触れたような気がした。うう、ドキドキして味がよく分からないけど、食べさせてもらったチョコはたぶんすごく甘い。
「真っ赤になっちまって、かわいいですね。おまえにあげたチョコみたい」
 そう言ってネズさんがにやにや笑う。恥ずかしい、恥ずかしい……!熱くなった頬を両手で押さえる。わたしの心臓が悲鳴を上げている。
「おれもいただきます」
 ネズさんがもう一つチョコを摘まんで、今度は自分の口に運んだ。わたしにあーんってしてくれた指がネズさんの唇にも触れて、ああ、まるで間接キスみたい……!なんて考えてまた恥ずかしくなってしまう。
「あ、美味しいですね」
 ネズさんがふわりと微笑んだ。
「おれのために一生懸命選んでくれたんですよね?すごく嬉しいです。素敵なプレゼントをありがとう」
 テーブルの上でさ迷っていた手が、ネズさんの大きな両手にぎゅっと包み込まれた。心臓がまたどきりと跳ねる。優しい瞳にまっすぐ見つめられると、なんだか逃げ出したくなってしまう。ネズさんがわたしの目を見てにこりと笑った。顔が熱くなるのが分かる。口の中のチョコも雰囲気もとっても甘くて、わたしはますますドキドキが止まらなくなってしまった。

☆ハッピーバレンタイン!

write:2021.02.14

edit:2021.08.01

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