ぬくもり
ネズさんとお出かけの約束をしていたのに、おなかが痛すぎて動けなくなってしまった。定期的にやってくる地獄みたいな日。リビングの床でうずくまっていたところを発見してくれて、看病してくれることになった。
「大丈夫ですか?今日はお出かけするのやめておきましょうか」
そんな!せっかくの休日、ネズさんと二人きりでお出かけできるのを楽しみにしていたのに。でも、うう、確かにこの感じではちょっと厳しいかもしれない。
すみません、と謝ったら「おまえは何も気にしなくていいんですよ。寝室まで行くのも大変ですよね、ソファに横になってください」といたわってくれた。申し訳ないな。
身体を起こすのを手伝ってくれたので、のそのそと床からソファに移動する。横たわったらふわふわのブランケットをかけてくれた。温かくて大きな手がわたしの手を包み込んでくれて、一瞬どきりとしてしまう。ああ、でもロマンチックな気分にはなれそうにない。はやく鎮痛剤を飲んで楽になりたいです。
「お薬ですか?今持ってきますね、あとお湯も沸かしてきます」
そう言ったネズさんがぱっと立ち上がって、電気ケトルに水を入れてスイッチをつけた。すぐにお湯が沸いたので、マグカップと鎮痛剤を持ってきて白湯と一緒に飲ませてくれた。お薬すぐ効いてほしいなあ。
「おなか、あっためましょうね。ちょっと失礼します」
ネズさんがごそごそと何かを取り出した。貼るカイロだ。さっき持ってきてくれたのかな。服の上からおなかの辺りにぺたりとカイロを貼ってくれる。ブランケットをかけ直して、その上から大きな手でおなかを優しくさすってくれた。
体も心もあったかくなって、なんだか少し眠くなってきた。
「目を閉じて、眠くなったら寝ていいですからね」
ありがとうございます。せっかくのお休みだったのに、今日の予定が全部なくなってしまったのに、ネズさんは文句一つ言わずわたしを気遣ってくれる。ほんとに優しいな……。
「つらいときはずっとそばにいますからね。おまえにはいつも笑っててほしいんで」
ネズさんの優しさに思わず視界が潤んで、ぽろりと一粒涙がこぼれた。
「ちょっと、泣かなくたっていいじゃねえですか」
そう言ってネズさんが笑った。だって、誰かにこんなにお世話してもらったのはすごく久しぶりな気がしたから。わたしはネズさんに何も返せないのに、まるでわたしのお兄ちゃんになったみたいに損得抜きでわたしの世話を焼いてくれるネズさんが好きで、だいすきで、うまく言えないけれど、おなかを撫でてくれていた手をそっと握った。
「よしよし、今日はゆっくり休むんですよ。元気になったらまたお出かけしましょうね」
ぼんやりと薄れゆく意識の中、優しく微笑んだネズさんがよしよしと頭を撫でてくれているのが分かって、わたしは救われたような気持ちで意識を手放した。
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write:2021.02.18
edit:2021.08.01