月夜に乾杯
ネズさんがわたしのためにお酒を買ってきてくれた。今夜は月がきれいなので、夜風に当たりながら飲むことにした。ネズさんを誘ったら「いいですね」と言ってくれたのでいそいそとベランダに出る。まあるくてとっても大きな月が夜空を照らしていた。ふたりで並んで座って、それぞれのグラスにワインを注いだ。
「乾杯」
ふたつのグラスが小気味良い音を立てた。注がれた深紅の液体を口に含む。おいしい、想像していたよりもずっと飲みやすいです。素直にそう伝えたら「気に入ってもらえてよかったです」とネズさんも笑ってくれた。
それからしばらく談笑して、だいぶ酔いが回ってきた。夜風が心地いい。ちらりと隣を見やると、勢いよく上下する喉仏に視線を奪われてしまった。男性らしい喉元に胸の高鳴りを覚えて思わず視線をそらす。ネズさんがくすくすと笑った。
「顔が真っ赤ですよ。もう酔っちまったんですか、それとも」
大好きな人の顔が近づいてきて、心臓がどくんどくんと大きな音を立てる。おでこをこつんと寄せられて思わずぎゅっと目を瞑ったら、そのまま唇を奪われてしまった。ん、ぅ、ネズさんにキスされてる。熱い舌が侵入してきて、わたしのそれを絡めとる。ちゅ、ぢゅる、ちゅう、なんて濡れた音が頭の中にこだまする。うまく息ができなくて意識がぼんやりしてくる。
やっと唇が離れたと思ったら髪を耳にかけられて、唇が耳元に寄せられた。熱い吐息が耳にかかって何も考えられなくなってしまう。は、恥ずかしい、爆発しちゃいそう。
「ぼーっとしちまって、そんなに気持ちいいんですか?……じゃあこのまま部屋に戻って、おれと『イイコト』しましょうね」
え、あ、ぁ……。艶っぽい声でとんでもないことを言われたものだから、今度こそ思考回路がショートしてしまった。顔面からはぷしゅうと音を立てて煙が出ているに違いない。それくらい熱くて、頭がくらくらして、もうネズさんに身体を預けるしかできなくなってしまった。へにゃへにゃと完全に陥落させられたわたしを見て、ネズさんが満足そうに笑った。
write:2020.10.27
edit:2020.10.29
相互さんのお誕生日祝いに書かせていただいたものです!